はぁ……。あ、すいません。お茶もお出しせずに溜息なんか吐いちゃって。
ああ、聞いてくれますか? ……愚痴みたくなっちゃうと思いますけど。
私、パチュリー様とケンカしちゃったんです。
私が未熟で、パチュリー様のお役に立てなかったからなんですけど……。
でも、パチュリー様の言い方も酷いと思ったんです。
だから、私も頭に血が上っちゃって。
それで、図書館から追い出されてしまったんです。
意味無いですよね、図書館の司書なのに図書館に常駐出来ないなんて……。
それで、とぼとぼと廊下を歩いてたらレミリアお嬢様とばったり会ったんですよ。
「あら。おはよう」
お嬢様はご機嫌だったんだと思います、ニッコリと笑って挨拶してくれたんです。
「お、おはようございますレミリアお嬢様」
「……」
「あ、あのー、お嬢様?」
何でしょうかね、お嬢様、体の一部を凝視してるんですよ……。
「……ああ、そうか」
お嬢様は勝手に一人で納得して、こう言ったんです。
「パッドよね? 貴方」
「……え?」
「あー、そうだわそうに違いないわ。そんなデカ乳、作り物じゃなきゃ何なの? って話だわ」
「あ、あのーお嬢様?」
「何よ。デカ乳作って楽しい? あー聞こえない聞こえない聞こえなーい」
そんな事を言いながら、お嬢様はどこかへ行っちゃったんです……。
取り残された私は何が起きたのやら、って感じでしたねー……。うん、まぁ気にしないです。
それで、咲夜さんにも会ったんですよね。
何があったか知らないですけど、廊下でナイフを持ってウロウロしてたんです。
うーん、何だか物騒で怖かったですね。気になったんで、私話しかけてみたんですよ。
「あ、あのー、咲夜さん?」
「む。何か用かしら?」
「あ、いえ。何でナイフを出してるのかなーって」
「ああ、これ」
咲夜さんは自分のナイフに目をやって、こう言うんです。
「ちょっとネズミがね……。あの白黒が」
「あーっ……。なるほど……」
ああ、普通に侵入者ですねと思いまして。でも、私じゃお役に立てないのでそのままその場を去ろうとしたんですよ。
「あッ!」
そこに現れたんですよ……。白黒。魔理沙さんですよ……。
「見つけたわよ! 待ちなさい! パチュリー様の本を返しなさい!」
「おっと、借りてくだけだから大丈夫だぜ」
魔理沙さんは箒にまたがって飛ぼうとするんです。
「そうは行かないわ! 殺人ドールッ!」
あ、これはマズイかなってそこで気がついたんです。私、どう考えても巻き込まれますよね。
そんな事を考えていた私は逃げ遅れまして……。
「うわっ、そんな危ない物投げるもんじゃないぜ! アースライトレイ!」
そこからどうにも……。記憶が無いのです……。まぁ、十中八九、魔理沙さんの魔法か何かに巻き込まれたから気絶したんでしょうけどね。
で、目が覚めたんですよ。巻き込まれてから、二時間位経ってましたね。
あー、魔理沙さん手加減無いんですねー……。
ああ、起きた場所は寝室だったんです。普通にベッドで寝かされていましたから。
でも、あんまり見た事無い部屋でして……。
紅魔館であることは間違いなかったのですけど、見慣れない部屋だったんです。
使用人のお部屋かな、って思ってたらドアが開きまして。誰か入ってきたんです。
それが――
「あ、目が覚めましたか?」
美鈴さんだったんですよね。そうですよ、私が寝てたのは美鈴さんの部屋だったんです。
ああ、この人はほんとにお人好しなんだなーって思って。ちょっとくすぐったい気分でした。
美鈴さんは濡れタオルを持ってきてくれてたんです。気付けば私の額にはタオルが乗ってました。
「あはは。あなた、廊下で倒れてたから。ちょっと心配だったんですよ」
「あー……」
助けてくれたのは良かったんですけど、私あの後放置されてたんですねー。
……いえ、泣いてなんて無いです。涙目な訳無いです……。ううう……。
まぁ、それはさておきちゃんと看病してくれてたのが嬉しかったんです、私。
「とにかく。まだ体は疲れてますよね? ゆっくりしてて下さい〜」
ニッコリ笑って、そう言ってくれる美鈴さんが眩しかったです……。ポッ。
それで、図書館にも帰るに帰れないのでお言葉に甘えようかと思ったんですけどね。
「待ちなさい魔理沙ーーーッ!」
「うおーっ! いい加減諦めろよーッ!」
……まだ、咲夜さんと魔理沙さんがおっかけっこしてたんですよ……。
「……ちょ、ちょっと静かにしてましょう!」
美鈴さんの提案を否定する意味も無いですから、大人しくして巻き込まれないように、って思ったんですけど……。
「ミスディレクション!」
「アステロイドベルト!」
こう、どっかーんとですね……。爆発音が聞こえて、部屋にまで何かが入ってきたんですけど……。やっぱり記憶が無いんですよねー。
ていうか、もう笑ってしまうレベルですよね。二時間位、おっかけっこを続けていた訳ですから。
もうおっかけっこのオチなんて知らないです。むしろ知りたくないです……。
で、次に目が覚めたらまたベッドの上に居たんですよ。
ふっと横を見てみたら、私の隣に座ってて、うたた寝してるパチュリー様の姿があったんです。
で、部屋を見渡してみたらやっぱりパチュリー様の寝室だったんですよ。
ああ、やっぱりというのはですね、私はパチュリー様に仕える小悪魔。だから、知ってるのは当然なんですよ?
むー、主の寝室が分からないほど私はおかしな従者じゃないですー。
それで、パチュリー様も丁度目が覚めたんです。
「んむ……」
「パッ、パチュリー様……」
「ふぁ……。あら小悪魔。起きてたの?」
ちょっと欠伸しながら、私を心配してくれるパチュリー様の優しさが嬉しかったんですよね。
え? ちょっと自意識過剰に見えます? またまたー。ご冗談を。
それで、パチュリー様とちょっとお話したんです。
「あ、あのーパチュリー様。どうして……?」
「どうして? 何よ、自分の従者が怪我をしているのを見捨てるほど薄情じゃないわよ?」
ちょっと悪戯っぽく笑って、私の鼻を人差し指で突っつくパチュリー様。
ああ、私はこの人に一生付いていこう―― 単純? いえいえ、そんな事ありませんってば。
あー、でも私まだこの憂鬱は治ってないんです……。
ええ、またちょっと怒らせちゃったんですよ。折角、仲直り出来たと思ったのに……。
「とりあえず。私は読書に戻るから。気分が良くなったらいらっしゃい」
「はっ、はい」
で、パチュリー様は図書館の方へ歩いて行くんですけど……。
「あっ」
ずるっすてーん。って感じでしたね。あんな綺麗な一回転は初めて見ましたね……。
それで、思わず私こう言っちゃったんです。
「あ、赤……」
まぁ、それ言っちゃった瞬間、パチュリー様の目つきが変わりましたね。
ええ、こればっかりは自業自得だったんですよ……。
「こーあーくーまー……」
「あ、いや、その」
「もうっ、バカァ!」
分厚い本が眼前に飛んで来て強制終了。一日に3回も気絶をしてるという、ある意味不思議な日……。
って、笑い事じゃないです。パチュリー様、許してくれるかなぁ。
あ、もうお帰りの時間ですか? ……もうちょっと居てくれたりは――しない。ですか。
いえいえ、忙しいんですよね。すいません、無駄に引き止めるような真似をして……。
それでは。今日はありがとうございました。
◆
その日の夜。お客様はもう帰って、私は一人。
図書館の部屋の前の廊下で、椅子に座ってブランケットを羽織って座っている。
ここ一週間は、ずっとこの状態だ。
寒いな。……今回ばっかりは、自業自得だと思うけど。
パチュリー様はと言えば、いつもの様に図書館で読書にふけっていると思う。
思う、と言うのは中に入れてもらえなくて、中で何をしているのか分からないからだ。
「パチュリー様……」
名前をボソッと呼んでみても、何かが変わるわけじゃない。
ああ、パチュリー様……。私が悪かったですから、どうか許してくださ
「ッキャアアアアアアアアア!?」
部屋の中から、叫び声が聞こえた。その直後、ドドドドという何かが崩れるような音が続いた。
まさか、高く積んでいた本が崩れたの……!?
「パチュリー様!?」
私は居ても立っても居られなくなり、急いで部屋に入った。
瞬間、何かの破裂音が聞こえ、無数の何かが私に纏わりついた。
これは――
「ハッピーバースデー!」
――私のお祝いを意味する七色の紙テープだった。
今、私の目の前にはレミリアお嬢様、フランドールお嬢様、咲夜さん、美鈴さん、そして――
「パ、パチュリー様……」
あんなに怒らせてしまっていたパチュリー様は、ニッコリと微笑んでこちらを見つめている。
「ま、感謝しなさい」
レミリアお嬢様が得意気になって言う。
「パチェが言ってくれなかったら貴方の誕生日なんて覚えていなかったんだからね」
パチュリー様が?
「ちょ、ちょっとレミィ。余計な事言わなくても良いの!」
パチュリー様は頬を膨らませて、レミリアお嬢様を指で突っつく。
「いーじゃないの。どーせ仲直りの為に私に言……むぐぐ」
パチュリー様はレミリアお嬢様の口を塞いだ。
ああ……。パチュリー様ってこんなにも優しかったんだなぁ……。今までずっとお側に居たけど全然気付け無かった。
「まぁまぁ皆さん。折角このような席を設けたのですから楽しみましょう」
と咲夜さん。
「おーなかすーいたー」
フランお嬢様も、(まぁ私の祝い目的でないにしろ)早くパーティーを始めたいようで、フォークでお皿をキンキン叩いている。
「さぁ、始めましょうか」
レミリアお嬢様が両手を叩くと、メイドさん達が次々と料理を運んできた。
……ありがとうございます。パチュリー様。
更に夜が更けた。もう深夜3時。
私はもうパチュリー様にお許しを貰って、自分の部屋に居た。
私の部屋は図書館の奥にあるのだ。
その部屋のベッドで、横になっていた。
「お腹一杯……」
ワインやら美味しいケーキやらで、お腹も一杯で、自分が酔っているのが分かった。
うーん……。早く寝ようか。パチュリー様より遅く起きてしまって、また怒られるのも嫌だし。
コンコン。
「?」
ドアがノックされる音が聞こえた。
図書館の奥にあるこの部屋だと、パチュリー様しか訪ねて来られないと思うけど……。
「はい。パチュリー様?」
パチュリー様だと思って、私はドアを開けに行った。
「どうかなさいました?」
ドアを開けて、パチュリー様を出迎え――
「むきゅー……」
「パッ、パチュリー様?」
ドアを開けるや否や、パチュリー様が私の胸に倒れこんできた。
すん、と不意に花に入ってきた臭いは非常に酒臭い。
「いや、ワインは確かに飲んでましたけど……」
「むきゅー……」
ああ、これはもうダメかもしれない。
仕方なく、私はパチュリー様をベッドに寝かせた。
結局今日もベッドでは寝られないのかな。
「んー……」
パチュリー様は寝息を立てている。もうすっかり寝てしまったようだ。
でも、ただ寝るだけなら私の部屋に来る必要なんてあったのかな?
――いや、それを考えるのはやめにしておこう。
今は、パチュリー様のこの寝顔を見ているだけで十分なのだから。
END
【あとがき】
今回からあとがきを追加。
という訳であとがきですよ奥さん!(ぇ
まぁ、火葛様からのリクエスト、「こぁって普段紅魔館メンバーとどう接しているのか?」と言うもので。
ちなみに、9割私の妄想で構成されています(ぇぁ
まぁ、スランプ脱出1作目となるわけですけど、果たしてスランプは抜けきっているのかとorz
それでは、火葛様だけに限らず、ご意見、ご感想などございましたらドシドシどうぞ。
戻る