私、ルーミア。闇を操る妖怪なの。
操ると言っても、自分の周りにバリアのように闇を張れるだけなんだけどね。
そんなんだから、人間はちっとも驚いてくれないし、他の妖怪たちにはいつもいじめられるの。
でもね、私考えたの。人間と、お友達になればいいんじゃないかなって。
それなら驚かす必要も無いし、何より仲良くできるし。
うん、決めた。私、「メンセツ」ってのやってみる!
◆
「ふぅ……」
ビルが立ち並ぶ街。都会と言うヤツは昔からの憧れだったが、実際住んでみれば疲れるだけの場所だと思った。
そして今俺は、休憩がてらコーヒーを飲みながら、ぼんやりと車の音で騒がしい街を眺めていた。
溜息をつかざるを得ない。どうしてウチの企業には優秀な人材が来ないのだろうか。
どいつもこいつも、志願理由はぱっとしないし、将来の夢は「入ってから見極めます」だぁ?
就職をナメてんのか。エリートの俺みたいな若くて優秀な人材は居ないのか。
「あ、先輩。そろそろお時間です」
後輩が、面接の開始を俺に伝えに来た。
やれやれ、いい加減まともな人材が来ればいいが……。
「よし、分かった。今行く」
「先輩も大変ですね。お若いのに、面接官だなんて」
「まぁな……」
って、他人事のように言うな、この野郎。後でビール奢れよ。
「そ、そんな〜!」
後輩の困った顔が、なんだか面白かった。
面接が始まった。次々と夢見る者たちが来るわけだが、やはり上辺だけの奴等。
今のところ消去法でしか選んでいない。「こいつはマシだな」みたいな。
「コホン。次の方、どうぞー」
次こそは当たりを。そう祈った。
「はーい」
気の抜けた返事がした。女か、最近の女はチャラくてどうも……。
などという俺の思考はノックの音で断ち切られた。
ドンドン! ……荒いよ。もうこの時点で落としてやろうかと思った。いや、まだだ。
きっと緊張してるんだよな、そうだ、そうに違いない。
引き戸が引かれて、一人の少女が入ってきた。
髪はショート、赤いリボンを着けている。金髪なのがちょっと気になったが、どうやら外国人みたいだから地毛らしい。
目は丸くて幼さを滲み出させていて、口はちっちゃくてやはり幼い。
白い肌は大和撫子のように綺麗。
だが、背丈はもう小学生レベルだと言っていい。これもまた、幼さを表現しているもんだ。
そして極め付けが服。白いシャツの上に黒いベスト、そして黒いスカート。
少なくとも、正装と呼べる服装では無かった。おいおい、受かる気あんのかよ。
少女は、淡々と椅子の隣までやってきて、ぺこりとおじぎした。
「お名前と、前の職業、年齢をお願いします」
職業と年齢を聞いたのは言うまでもない、少女、いや幼女だからだ。
ウチは製薬会社だぞ、こんな幼女が入れるとでも
「ルーミアです、妖怪をしていました。今年でちょうど、百歳です」
……色々、耳を疑った。ルーミアさんか。
外人ぽい名前なのはまぁいいとして、妖怪だと? んで、百歳てなんだよ。
「あー、分かりました。どうぞ、お座りください」
ルーミアさんは、またおじぎをしてから座った。さて、適当に質問して落とすか……。
は? 落とす理由? 説明するのも馬鹿らしい。
「それでは、志願理由を教えて下さい」
ルーミアさんは、ぺったんこな胸を精一杯反らして自信たっぷりに答えた。
「はいっ、人間と仲良くなるためです!」
――ダメだダメだ。自分を本気で妖怪だと思ってやがる。
人間と、って。何世代遅れたらそんな答えを出せるんだよ。
「あー、それでは特技などは!?」
さっさと終わらせようと急いだら、口調が強くなってしまった。いけないいけない、キレてはいけない。
ルーミアさんはまた自信たっぷりに答えた。
「はいっ、闇を操れます!」
……へー。闇をねぇ……。じゃあやってもらおうじゃねーか。
「なら、やってみてくれますか?」
「勿論です!」
ルーミアさんは席から立ち上がり、両の掌を胸の前につき出した。
「ダークバリア発動!」
ルーミアさんが痛々しく(勿論アレ的な意味で)叫ぶと、ルーミアさんは黒い幕に包まれてゆき、最後には球体になってしまった。
そ、そんな馬鹿な! こんな能力……。
「無意味だっ!」
突っ込まざるを得ない。いや、凄いんだよ。でも意味の無さが半端無いんだよ! これでどうするんだ?
「はいっ!」
心強い(?)返答が聞こえた。見えないけど、ルーミアさんは自信に満ちているようだ。……って、何もねーのかよ!
「えーと……。弊社において、その特技はどのようなメリットがあるのですか?」
「お、お化け屋敷とかで活躍します!」
「要りません。ていうか、怖くないです」
「紅のスーパーボールです!」
「黒いんですけど」
「てーれってれー!」
「適当な効果音で誤魔化さないで下さい。とりあえず、その結界みたいなのをやめてください」
俺が言うと、黒い幕はどんどんと小さくなっていき、そして消えた。
「……」
ルーミアさんは、しょんぼりとうつむいている。
そうかそうか、流石に不合格確定に気づいたか。
「次の……」
「え?」
ルーミアさんが、ボソボソと何か喋っている。
「どうか、なさいましたか?」
「次の質問お願いしますっ!」
ま、まだ諦めてなかったか。いいだろう、やってやるさ。
「えー、それでは。友人はあなたのことをなんと言っていますか?」
凍てつく空気。な、何でだよ。ルーミアさんはまたうつむいてしまった。
それを見て、「あっ」と思ってしまった。
回答をメモする欄を見て、納得。
Q1.志願理由は?
A.人間と友達になる事です。
思い出した。さっきの能力を見て、この人を妖怪だと認めるならばこの回答も十分に納得できる。
「うう……。他の妖怪たちは、私を役立たずだなんて言うし……」
いかん、発言がネガティブになってきたぞ。
「百鬼夜行にも入れてくれないし……」
……。
「私なんてどうせぬらりひょんの亜流ですぅ……」
もうダメだ。
「分かりました。面接は以上です。ありがとうございました」
「先輩。面接、お疲れ様でした」
「ああ、ありがとう」
後輩が缶コーヒーを買ってきてくれた。
プシュッ、とふたを空けて一口。ほろ苦い。
「それで先輩。良い人材は居ましたか?」
「ああ。一人、気になるのが」
へー、先輩が気になるなんてとか後輩が言ってるのを尻目に、俺はルーミアさんの事を思い出していた。
……。不思議な人だったなぁ。
◆
「あーうー……。絶対落ちたよぅ……」
ベッドで力なく寝ていた。お友達も作れないなんて、もう私は妖怪としての価値すら無いのかなぁ……。
カタン。郵便受けに、乾いた音が聞こえた。ああ、結果の通知かな。
私の予想通り、あの会社からだった。
「いいもん、不合格でも。次の企業を探すんだもん」
なーんて言いながら、ちょっと期待しつつ封をあけ――ッ!
「こ、これは……!」
◆
「え、先輩そんな訳分かんないの通したんスか!?」
「訳分かんないとか言うな。妖怪も大変なんだよ。特に、不景気だしな」
「先輩、ロリ」
下らん事を言おうとした後輩の腹に右フック。後輩は膝から崩れ落ちた。
……ルーミア可愛いよルーミア。
END
「面白い!」「ここはこうすれば?」「うん……まぁいいだろ」とか何でも構いません。
お暇でしたら是非感想を!
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