私って、両親が居ないんです。捨てられてたみたいで。
 それで、この洋館の主が拾ってくれたんです。……お嬢様の事です。
 五歳のころから、この洋館で門番として働く為に、武術を学んでいます。
 ……いえ、門番として働き出したのは十歳からです。学び始めた直後から、門番は務められませんから。
 そして、あの日は私が生まれてからちょうど、十五年。つまり、私の誕生日でした。
 その日私は、いつものように門番をしていました。誕生日だからって、いつもと何か変わるわけじゃありませんし。
 日が昇る前から、私は門番を務めています。毎日の事なので、苦ではありません。門の前で、いつ来るか分からない侵入者を待つだけでした。
 流石に、暇でしたね。物騒な世の中だからって、ここまでしなくても良いと思いません? 
 油断して余所者に侵入されて『ネコ度が足りないわ』ってお嬢様に怒られましたけど。要するに、侵入者という名のネズミを私という名のネコが捕まえられてない。そう、ネコ度が足りないんです。
 もうちょっと分かりやすい喩えは無かったんでしょうか。難しい事を言いたかったんでしょうかね……。
 あ、すいませんね。関係の無い話をしてしまいました。
 そうそう、バースデーの話。今年ほど嬉しいバースデーは、初めてなんです。まともに、祝ってくれた事なんて無かったから――
 その日は、どうしても祝って欲しくって。思いっきり、アピールしちゃおうかと思い立った訳です。
 私以外の人に門番を任せて、掃除している咲夜さん、あ、咲夜さんというのはお嬢様のメイドさんなんですよ。その咲夜さんにアタックしてみたわけです。

「あ、咲夜さーん」
「何かしら?」
「知ってます? 今日は私の――」
「咲夜ーーーーっ!」
「はっ、はいお嬢様!? 何でしょうか!?」

 忙しい咲夜さんは、お嬢様に呼ばれてパタパタと走っていっちゃうんです。当然ですよね……。私より、お嬢様が大事ですし。
 それで私、思いついたんです。『お嬢様ならどうかな?』って。お嬢様に祝ってもらおうなんて、図々しい話かもしれないです。でも、私はとにかく祝って欲しかったんです。恐れ多くも、お嬢様にアタックしました。

「お嬢様ー、今日は私の――」
「あんた誰?」

 玉砕。あれは誤算でした。お嬢様に顔すら覚えてもらってなかったんです、私。
 うーん、雇っている人の情報みたいなのは、咲夜さんが管理してるからでしょうかね。私たち下っ端の事なんて知る訳無かったんでしょう。
 ……いえ、泣いてなんかないです。普段から喋ったりしてるのに、今更名前を聞かれたこと位じゃ泣いたりしないです。ほんとですってば。
 ええ? 他の人は、って? ……我侭ですけど、私は親しい人に祝って欲しかったんです。
 ちちちち、違いますよっ! 友達が少ない訳じゃないですっ! ほんとですってばぁ!
 ……コホン。取り乱しました。そ、それでそうこうしてるうちに、門番交代の時間が来てしまったんです。仕方なく戻る訳です。椅子に座って、本を開きました。そう、この本がきっかけだったんです。
『バースデーは、祝ってもらうと嬉しいのは世の真理』
 そんな偏見染みた事を書いてたんですよ。その本。そんなの読んでしまったからです。私が、祝われたいなんて思ったの。

「……寒いなぁ」
 追い討ちでしたよ。小雨ながら、雨が降り出したんです。まるで、私のその時の心のような……。
 え、いや。ナルシストとかじゃないですよ?
 結局、その日の仕事が終わっちゃいました。何も出来ないまま、ね。
 雨の中頑張った自分にご褒美でもあげちゃおうかな、って思いながら自分の部屋へと向かいました。ええ、私は住み込みの門番ですから。
 楽しみに取っておいた、グレープのアメでも舐めようなんて。えへへ。贅沢し過ぎですかね? あれ、何ですか、もしかして……。笑ってます?
 もう、ここからが大事なんですよ?
 そこで私、部屋に入ったんです。そしたらそしたらっ!
 机の上に、手紙とケーキセット、それと包みが置いてあったんです。
 手紙にはですね、こう書いてたんです。

『ハッピーバースデー。アピールなんかしなくても分かるわよ。 咲夜より』

 読んだ瞬間、涙が止まらなくなっちゃって。咲夜さんの優しさが嬉しくて嬉しくて。グレープのアメも忘れて、ケーキを頬張りました。あの時のケーキの味が、忘れられないです。
 咲夜さんお手製の、特製ケーキ。滅多に食べられません。甘くて、とっても美味しかったです。あったかいココアもありました。
 私が仕事を終わる時間を見計らってくれたのでしょう。
 涙がココアに入っちゃわないように、飲みました。
 冷えてた私の体が一気に温まって。もう涙も止まらなくて。
 それでそれで、包みの中身ですよ。この冬ピッタリの、マフラーでした。
 綺麗な赤色をしてまして。ココアとあわせて、暖かさ二倍でしたよ。
 あ、分かりました? そうです、私が今してるマフラー。これですよ。
 こんなプレゼントも貰った事なくって、とにかく私、嬉しかったんです。
 それで、もっと嬉しかった事はですね――

「こらそこ。近所の人と仲良くするのは良いけど、私語は慎みなさい。私は買出しに行って来るから。留守中、ちゃんと守りなさいよ?」
「あっ、咲夜さん。マフラー、お揃いですね!」
「だから何? 色が被ってるだけでしょ」
「えへへ……。気をつけて行って来て下さいね〜!」

 咲夜さん、今日も同じ色のマフラーで出掛けていきましたよ。ね、ね。見てました? 
 ええ? 自慢話は聞き飽きたって? そ、そんな〜。 

END


「面白い!」「ここはこうすれば?」「うん……まぁいいだろ」とか何でも構いません。
お暇でしたら是非感想を!


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