魔理沙とケンカした。
理由は些細な事だった。
「なぁ、アリス。私の家なんか来て楽しいか?」
それは、魔理沙の家に行った時の事だった。
テーブルを挟んで、二人で楽しく喋っていた。
この魔理沙の何気ない一言に、
「勿論よ」
と、答えた。
魔理沙はフッと笑って、
「そうか。ウチなんか地味だと思ってたんだが、お前がそう言ってくれるなら安心出来るぜ」
「そうかしら?」
私だって、魔理沙にそう言って貰えて嬉しい。
「でさ、アリス。紅茶の話なんだが――」
魔理沙の口から、ポッと出た「紅茶」というワード。
それを聞いた途端、私の心が一瞬で曇ったのが分かった。
……また、それか。
元より紅茶が好きな私。
飲むのも淹れるのも。
元より紅茶が好きな魔理沙。
ただし、飲む事だけ。
魔理沙は会う度に紅茶の淹れ方を聞いてきた。
そんなに好きなのか。と思うほど頻繁に、だ。
最初の内は私も喜んで教えていたけど、何度教えても魔理沙はすぐに覚えてはくれなかった。
淹れる手順も葉の銘柄も、ちゃんと覚えてくれない。
どうしてこんなに覚えてくれないんだろう?
いつもみたいに、私をからかっているのかな?
……そうなのかな。
「私さ――」
「いい」
「ん?」
気付けば、私の口が動いていた。魔理沙の言葉を遮って。
「またなの?」
明らかに変わった私の態度を見た魔理沙は、少したじろぐ。
「ど、どうしたんだアリス」
「どうしたもこうしたもないわ。いつも同じ話を聞かされる方の身にもなってくれる?」
いい加減飽き飽きしてきた、と続けようとした私は、
「なんだと!」
魔理沙の激昂、そして魔理沙が掌を机に叩き付けた音によって止められた。
「おおおお、お前ッ……!」
魔理沙はかなり落ち着きをなくしていて、かなり怒っているようだった。
私、そんなに怒られるような事を言ったかしらね!?
「何であんたが怒るのよ!」
気付けば私も落ち着きを無くし、思わず立ち上がる。
「うるせぇ! お前は人の気持ちも考えずにだな、」
「何言ってんの! それはこっちの台詞よ!」
魔理沙の怒りに比例するように、私の怒りも増大したように感じた。
「はぁ!?」
魔理沙も私に対抗するように立ち上がる。
「大体、お前はだな……!」
「そっちだって……!」
その後も、ずっと口論していたと思う。
最終的に、「もういい!」と私が言って家を出て行って終わった。
「っ……!」
思わず頭を抱えて机に突っ伏してしまう。
バカか私は。どれだけ心が狭いんだ……。
話題が変わらないから怒るなんて。
あの時の私はどうかしていたんじゃないだろうか。
本当にどうしよう。取り返しもつかないような事をしてしまった……。
なんて謝ったら良いの?
素直に『ごめんなさい』?
……ダメだろうな。こちらが理不尽に、勝手に怒ったというのに普通に謝って許してもらえるなんて思えない。
どれ程の事をしたら償えるだろうか。
……。どうしよう。
「……ん? アレ?」
どこだろう。と思ってしまった。
だけどそれはいつもの見慣れた場所だと気付くのにはそう時間はかからなかった。
暗く、深い森の中。
静けさで満たされたここは間違いなく、魔法の森だった。
「よぉ」
不意に、背後から声がした。
振り返れば、魔理沙が立っていた。
「魔理沙……」
私が返事すると、魔理沙はニコリと笑った。
「今日はここに居たんだな」
「へ? あ……。うん」
魔理沙はずっと後ろに回していた手を自分の胸の前に持ってきた。
「ほーら、こんなデカいキノコ見つけたんだぜ?」
魔理沙の手には大きなキノコがあった。
ワイングラスみたいに大きいキノコ。確かに立派だ。
「すごいね」
「だっろー? お前に見せたかったんだ」
魔理沙はへへん、と得意気に胸を張った。
「おーい、アリスゥー」
また背後から声がした。
今度はびしょびしょになってる魔理沙が立っていた。
周りの様子もさっきまでとは変わっていて、いつの間にか雨が降っていた。
見渡す限りの草原で、たった一本の大木が生えているだけという殺風景な景色だ。
その大木が屋根となって、私達を雨から守っていた。
「いやー、災難だな。いきなり雨なんてさ」
苦笑いをしつつ、魔理沙はスカートの裾をぎゅーっと絞っている。
「あはは、そうだね」
私も同じように、いつの間にか濡れていたスカートを絞る。
「お? 雨がもう弱くなってきたかな?」
魔理沙の言葉を聞いて、私も空を見上げる。
さっきまであんなに強かった雨は、嘘みたいに弱くなっていた。
「ま、通り雨だとは思ってたんだが」
帽子についていた水滴も払い落とした魔理沙は、空を見ている。
すると、何かに気付いたように指差した。
「すげえ! おいアリス、アレ見てみろって!」
魔理沙が指差した方に視線をやった。
雨はもうすっかり止んでいて、空には綺麗な七色の虹の橋がかかっていた。
「……綺麗ね」
「そーだな!」
魔理沙は子供みたいにはしゃいでいる。
「な、な、アリスッ」
隣に居る魔理沙に声をかけられる。
気付けばもう魔理沙の家に居て、目を輝かせた魔理沙が机に上体を乗せて食い入るように私を見つめていた。
「お前紅茶淹れるの得意だよな? 私にも教えてくれよ!」
断る理由も無い。
「ええ、良いわよ」
「おーっ、やったやった」
魔理沙は満面の笑みをした。
「よーし、ちゃんと覚えて、お前の為に淹れてやるからな! とびっきりのヤツを!」
その言葉を聞いて、私は思い出したのだった。
元はといえば、魔理沙は私のために紅茶の淹れ方を覚えようとしていたのだと。
……ああ、私はそんな魔理沙が好きなんだ。
「……」
気付けば私はベッドの上に居た。
窓からは月明かりが差し込んでいる。そうか、いつの間にか寝ていたんだな……。
懐かしい夢を見ていたような気がする。
……私達はあんなにも仲が良かったのに。
どうしてこんな事になったんだろう。
「ッ……」
気付けば、瞳から涙が零れ落ちていた。
「ううっ……」
やっぱり私がバカだったんだ。
人の気持ちも考えないで、と魔理沙が言っていた事。
それは紛れも無い正論だったんだ。
何もかも、間違えていたのは私なんだ。
「……うわあああああああ」
私は声を上げて泣いた。
バカ。バカバカバカ。なんでなの? なんで私は人の気持ちを理解できないの?
……バカ!
気付けばもう朝になっていた。
泣きつかれた私は、ぐったりとベッドの上に横たわっていた。
……時間、戻らないかな。
無理か……。無理だよね。
コンコン。
その時、入り口のドアがノックされた。
誰だろう。こんな朝から。魔理沙……なのかな?
「アリス」
外から声が聞こえてきた。魔理沙だ!
私はベッドから飛び出して、急いで扉を開けに行った。
「魔理沙!」
「ごめんなさい!」
魔理沙は扉の外で、頭を深々と下げて謝罪をしていた。
「ちょ、ちょっと魔理沙」
私も屈んで魔理沙の頭の高さに自分の視線を合わせる。
「許してもらえるとも思ってない! だが謝罪の言葉だけでも聞いてくれ! 本当にごめんなさい!」
何度も何度も頭を下げて謝る魔理沙。
それは、本当に申し訳無さそうで、見ている私が申し訳無くなるほどだった。
「私の方が悪いのになんで魔理沙が謝るのよ」
「いや、だって」
顔を上げた魔理沙は瞳に涙をためていて、顔を真っ赤にしていた。
「違う魔理沙。私がバカだったの」
「アリス……」
それから魔理沙と私は話し合った。
私は謝った。
だけど、魔理沙は自分が悪い、という意見だけは曲げなかった。
魔理沙らしいといえば魔理沙らしいと思う。
「で、アリス。お前に言いたい事があったんだ」
「何かしら」
「私、やっと紅茶が淹れられるようになったんだぜ」
魔理沙はダージリンの葉を得意気に私に見せた。
「出来た」
魔理沙はぎこちない動きでティーポットとティーカップを持ってきた。
そして、テーブルにこぼしそうになりつつも置いた。
「……どうだ? アリス。秋に摘まれた葉が良いと聞いたから、オータムルナルってのにしてみたんだ」
カチンコチンに緊張した魔理沙。心配そうに私を見つめている。
「魔理沙、それを言うならオータムナル、でしょ?」
「あっ」
魔理沙は顔を真っ赤にして頭から煙を噴いた。可愛らしいわね……。
そんな魔理沙を見ながら、私はまず香りを堪能してみる事にした。
すぅっ、と鼻を通る、爽やかで清涼感ある香り。
良いわね、やっぱり。
そして私は一口、ダージリンの紅茶を飲んだ。
「うん、美味しいっ」
私は素直な感想を述べた。
「そ、そうか!」
魔理沙は安心したような顔をして、ガッツポーズをとった。
「魔理沙、やったね」
私も笑顔で喜んだ。
「おう! アリスのおかげなんだぜ!」
魔理沙は、今までに無い最高の笑顔をしていた。
私は魔理沙とまた一緒に居れるという喜びを感じていた。
==あとがき==
という訳で!
読了感謝です! あ、読了してなかったらあとがきなんて読んでないよね? とか思ってるんです私はね(黙
8割が実体験な小説だったりします。
今、とてつもなく仲の悪いヤーツが居るんですが、(ぇ
そいつと仲が良かった頃の夢を見たんです。
このお話と違うのは仲直りしてない事だ!(ぁ
一つの間違いで友情って壊れるんだな、と思うこのごろ。
私もマリアリのように綺麗に修復したい。
そんな思いから書きました。
狽トいうかお祝いだろこれ!?(ぁ
えー、こんな内容になっちゃいましたが紫煌刀様、受け取ってください!
それでは。
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