時刻はおやつ時を回った。
 畳の床が心地良い和室。
 庭の手入れをようやく済ませた私はのんびりとくつろいでいた。
 今からは私の自由時間なのだ。
「ねぇ、妖夢」
「あ、何でしょうか幽々子様」
 障子を開けて、縁側からひょっこりと顔を出したのは幽々子様。
 この白玉楼の主である。
「おにぎり作ってくれない?」
「おにぎりですか……?」
 お昼ごはんはちゃんと振舞ったのだけど……。
 幽々子様はまだお腹が空いているのだろうか。
「ちょっと思いついた事があって……」
 幽々子様は少しだけ真剣な面持ちをしている。
「は、はぁ。構いませんが」
「ありがと、妖夢」
 少し堅くなっていた幽々子様の表情は、またいつもの穏やかな笑顔へと戻った。
「あ、梅干しとごま塩とのりたま、それに明太子とたくあんにしてね」
「りょ、了解です」
 随分と色んな味を求めてきた幽々子様。
 でも、普段の姿からは見られない真剣な表情を見せた幽々子様の言う事だ。
 何かあるのかもしれない。ここは素直に5種類作ろう。
 アレ? たくあんもおにぎりに入れるのかな……?


「出来ましたよ、幽々子様」
 とりあえず、言われた通りの5種類のおにぎりを作った。
 味の出来は良いはず。楕円形の皿に並べてある。
「ありがとう、妖夢」
 幽々子様は私が差し出した皿を取って、机の上に置いた。
「妖夢」
「は、はいっ」
「味はどれがどれだか分かる? 梅干と明太子とたくあん」
 ごま塩とのりたまは別に説明は要らない。振り掛けているだけだし。
「は、はい。右端が梅干、左から2番目が明太子、左端がたくあんです」
 一列に並べられたおにぎりの味を纏めるとこうなる。
 右から順に、梅干、ごま塩、のりたま、明太子、たくあん。
 しかし、順番なんて関係あるのだろうか?
「今から起こる事をよく見てるのよ……!」
 いつになくシリアスな雰囲気を出す幽々子様。何が起きるというのだろう……?
「はっ!」
 幽々子様は自らの掛け声と同時に、右端のおにぎりを右手に掴み取った。

「赤い彗星、ウメボシレッド!」
 
 ……え?
 頭の上に疑問符が大量に浮かんでいるであろう私を置き去りにして、幽々子様はそれを一口で食べる。そして、その隣のごま塩を取り、
「青いイナズマ、ゴマシオブルー!」
 食べる。その隣も、
「カレー大好き、ノリタマイエロー!」
 食べる。その隣も、
「ラブリーハート、メンタイピンク!」
 食べる。その隣も、
「敵か味方か!? ツケモノブラック!」
 食べる。そしてトドメに、

『オニギリ戦隊、炊飯ジャー!』

 幽々子様は高らかに叫んだ。
 その後、一年よりも長く感じた数秒が過ぎて、幽々子様は満足そうな顔をした。
「いやぁー、こういう戦隊モノに憧れててね? 何だかやってみたくなったの〜」
「……」

 こういう時、どう声をかけてあげたら良いんだろう。


【あとがき】

炊飯ジャーを眺めていると、たまたまテレビから○○戦隊! ○レンジャー! みたいな台詞が聞こえました。
そうか、炊飯ジャー!(黙れ
思いつきの割には意外と良い感じにはなったんじゃないかと勝手に思ってます。(ぉぃ


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