「ん……。朝……か」
 ふと目を覚ました私は、上体を起こして大きく伸びをした。
 そして一つ欠伸をする。
 眠気が覚めるまで、そのままの体制でぼーっとしてから私は布団から抜け出して、寝巻きから普段着に着替えた。
「さて、多分早苗は起きてるし……。私も行こうか」 
 自分の寝ていた布団を畳んでから、私は早苗が居るであろう台所へ向かった。


「お早う、早苗」
「あ、お早うございます。神奈子様」
 予想通り、台所には早苗が居た。
 いつも私や諏訪子より早く起きて朝ご飯の支度をしてくれている早苗には頭が上がらない。
 早苗は鍋の中身をかき回しながら、
「そろそろ朝ご飯ができますので、諏訪子様を起こしてきてくれませんか?」
「了解よ」
 どうやら温かいお味噌汁みたい。早く食べたいし、さっさと起こしに行きましょう。


 縁側を通って、諏訪子がいつも寝ている部屋へと向かう。
「それにしても、今朝も寒いわ……」
 流石に冬。床は冷たいし、外と同じような状況だから、風邪を受けてとても寒い。
 外には雪が積もっていて、一面銀世界となっていた。
 さっさと諏訪子を起こして、あったか〜いお味噌汁にありつきたいわ。
 そうこうしている内に、諏訪子が寝ている部屋に着いた。
「さて、起こしますか」
 部屋と縁側を隔てている障子を開けて、私は部屋へと入った。
「わーお」
 部屋にあるのは、山のように積まれた布団。この中に、埋もれるようにして諏訪子は寝ているはず。
 蛙である諏訪子は極端に寒がりで、そしてとことん冬に弱い。
 だから、こんな重装備でないと諏訪子は眠る事が出来ないのだ。
「やれやれ」
 私は布団の山によじ登り、てっぺんから布団をひっぺがしていった。
 ようやく全部の布団を引き剥がした後にあったのは諏訪子の姿。無きゃ困る。
 しかし、諏訪子はまだすやすやと寝ている。
「あー、諏訪子ー。起きなさい。もう朝ご飯できるみたいよ」
 揺さぶってみるけれど、諏訪子はまだ起きない。
「もう、この困ったちゃんは」
 とりあえず溜息を吐いた。吐いたところで、諏訪子が起きるわけでは無いのだけど。
「早く起きないと、悪戯しちゃうわよー」
 なんて冗談を言いながら諏訪子のほっぺを突っついてみる。
 プニプニしていて可愛らしい。
「ん……。む……」
 と思ったら目を覚ましたみたい。
「あ、あと五分……」
 諏訪子はそんな事を言いながらまた布団を引き寄せる。
「もー、あと五分じゃないわよ。どうせその布団一枚じゃ眠れやしないんだから、さっさと起きなさい」
 重装備で無いと眠れない諏訪子は、一度布団を剥ぎ取ってしまえば二度寝が出来ないという弱点があった。
「ううう……。神奈子のオニー。アクマー。ヒトデナシー」
 諏訪子は恨めしそうな目でこちらを見ている。
「何とでも言いなさい。早く起きれば、すぐに朝ご飯食べれるのに」
「そ、そりゃあそうだけど」
「分かってるなら早く起きなさい。ね?」
 諏訪子はむー、とうなるとうつ伏せの状態で両手を床に着いた。
「よし、じゃあ行きますか」
 もういい加減に起きるだろうと思った私は、入り口の方へ振り返り、先に部屋から出ようとした。
「ん?」
 すると、服の袖が何かに引っ張られているように感じた。
 見てみれば、諏訪子がうつ伏せのまま私の袖を掴んでいた。
「諏訪子。早く行くわよ? そんな事したって起こしてあげたりしないんだから、自分で立ちなさ――」
「あーうー……」
 不意に諏訪子の力が強くなり、
「きゃっ!?」
 私は思い切り後ろに転んでしまった。
「いたたた……。ちょっと諏訪子、何するの!?」
 諏訪子は、私が聞いた事に対して返事もせずに、
「さーむーいー」
 と言いつつ私を布団の中へと引きずり込んだ。
「えへへ、こうすれば布団一枚でも温かいよね」
 諏訪子は笑いながら、ぴとりと私にくっついた。
「す、諏訪子。もう朝ご飯できるからっ。起きないと……」
 ……ってアレ?
「ん〜……」
「諏訪子、諏訪子。……諏訪子?」
 呼んでみたけど、諏訪子から返答は無い。
 耳を澄ませば、すーすーという寝息が聞こえた。
「む……。人肌を使って二度寝するとは」
 もう良いわよ、知らないわ。ねぼすけなんか。私だけ早苗の朝ご飯にありついてやる。
 そう思って私は布団から抜け出そうとした。けど。
「ん? アレ?」
 諏訪子の腕ががっちりと私を掴んでいて、私は布団から抜け出せなかった。
「ちょっと諏訪子! 離しなさいよ、ねぇ! 私、早く温かいお味噌汁飲みたいの! ちょっと、ちょっと! ねぇ、ねぇってば! 起きなさい、諏訪子! 諏訪子、おーいっ!」
 声をかけても全く起きない諏訪子。ああ、どうしたものなの?
 ただ、時間だけが過ぎていった。


「神奈子様? 諏訪子様?」
 朝ご飯の準備はとっくにできたというのに、神奈子様は諏訪子様を起こしに行ったきり帰って来ない。
 諏訪子様もまだ台所に来てないから、すれ違いは無いと思うけど。
 私は諏訪子様がいつも寝ている部屋へと来ていた。
「二人共、居ますかー?」
 まぁ、まさか二人揃って寝ているなんて事は――
「あ」
 なんて事あった。経緯はよく分からないけど、二人共同じ布団で眠っていた。
「ミイラ取りがミイラになってるだなんて……」
 我ながら上手いこと言った、なんて勝手に照れながらとりあえず二人を起こす。
「神奈子様、諏訪子様。朝ご飯、出来てますよー。ほら、お味噌汁冷めちゃいますから……ってひゃぁい!?」
 布団から手が伸びてきて私の腕を掴み、そのまま布団へと引きずり込んだ。
 あまりに強い力に、私は抵抗する間も無く布団へと入れられた。
「ちょちょちょ、ちょっと! この手、神奈子様ですか!? やめ、やめてください……!」
 布団の中で見えた神奈子様の表情は、眠たそうで私の声なんか聞こえて無い様だった。
「わっ、分かりました! 寝てても良いですから。私は境内のお掃除して来ます……ってアレ?」
 布団から抜け出そうとするけれど、しっかりと掴まれた腕は離れそうに無かった。
「は、離してくださぁぁぁい……」


 その日は、一日寝ていたみたいだった。
 目を覚ましたら、朝ではあったものの、霊夢さんに日付を聞いて一日過ぎている事に気付いたのは良い思い出だ。

【あとがき】
自分はほのぼの系が好きなんだなぁと改めて思った作品です。
何かこう、ね? ええ、そういうことです(意味不

冬の朝って起きたくないですよね。
そんな思いから出来た作品です。朝の布団ほど気持ちが良い物は無いんですよ(ぁ

皆も、寝坊には気をつけよう!(ぇ


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